靖二江口

「博多通りもん」の秀逸なサイネージ事例を初めて現場で見た

日本における今までのデジタルサイネージのクリエイティブの中でも、最も秀逸なものの一つとして挙げられるものが、2017年の明月堂の「博多通りもん」の福岡空港での事例である。あれから4年が経過しているのだが、今回はじめて現場でそれを現場で見る機会があったので、報告をさせていただこうと思う。

これは福岡空港の国内線ターミナルの、保安検査場入り口に設置されているLCD16面のマルチディスプレイの媒体で掲出される。この媒体は広告媒体なので様々な広告主の広告素材が掲出されている。下の動画では1面しか見えていないが、実際には中央のフライトインフォメーションを挟んで左右に同じものが設置されている。

細かいことだが、素材の前後に黒味が入っている。これは狙ったものなのか、システムのデジタルファイルの読み込み処理が甘いのかはわからない。わからないのだが、個人的には悪くないと感じた。次の素材への転換のメリハリをはっきり感じられるからである。以前はここを詰める技術がないシステム会社が「デジタル動画はこういうものです」と言い張っていものが多かったが、狙いで考えてもいいのではないかという気もした。

話がそれたが、博多通りもんは福岡土産の定番中の定番で、とても美味しいお菓子である。筆者も福岡にでかけたときはほぼ必ずと言っていいほど買っている。この商品の広告コミュニケーションを福岡空港という場所で行うというのは、非常に理にかなっている。ターミナルビル内や検査場の先の制限エリアの売店では、博多通りもんを買える店舗がたくさんある。そこで買い場の直前でワンプッシュというわけだ。そして言うまでもなく、このクリエイティブがこのロケーションに完璧にマッチしている。というよりもこの場所以外では成立しないくらいにマッチしている。この事例は、2017年のデジタルサイネージアワードのグランプリと、第56回福岡広告協会賞の銅賞を受賞している。

デジタルサイネージアワードのグランプリを受賞したときの資料映像を下に貼っておく。これはアワード審査のためのプレゼン用に制作されたものだ。今回感じたことは、実際に現場で見たものと印象がだいぶ違う。現場では音は何もないのだ。また現場で実際に見ると、この広大な空間に対して16面マルチは想像していたほどインパクトを感じない。また2017年なので仕方がないのだが、LCDマルチの「ベゼル」が気になる。

だからといってこの事例の価値が下がるわけでは全くなく、秀逸であることには変わりない。デジタルサイネージは現場が大事ということだけである。

デジタルサイネージ総研 江口 靖二

「今日の仕事は楽しみですか。」はコミュニケーションを間違えている

先日JR品川駅のデジタルサイネージに掲出された広告が、いわゆる炎上によってわずか1日で掲出が中止になった。今回はこれについて考察をしておきたい。

炎上したのはこのデジタルサイネージ広告主の社長が、Twitterに投稿した下のツイートである。

サイネージが炎上したというよりは、このツイートが炎上したというのが正確な言い方のようだ。ご存じない方もいるかも知れないので、このデジタルサイネージの設置環境を説明しておく。場所はJR東日本の品川駅。高輪口と港南口を繋いでいる自由通路の左右両側の裏表に70インチのディスプレイが44面設置されている。この通路はどちら方向も非常に人流が多く、特に朝の時間は港南口側のオフィス集積に通勤する人々が、帰宅時はその逆方向に人の流れが集中する。また一日を通じていわゆるサラリーマン層が圧倒的に多く通行する場所である。この通路は「公道」扱いのために、元々通路の両サイドには広告を始めとする掲出物がなく、ディスプレイに表示される映像は非常に目立つ。なお、このデジタルサイネージは然るべき手続き(議会承認まで得ている)を経て設置をされているものだ。また設置位置もかなり高くて若干カーブをしているために、通行人からは一番奥のディスプレイまで見渡すことができる。つまり極めて強制視認性が高い媒体ということになる。なお、ここを通過するためにはおよそ90秒必要である。

このサイネージの媒体社であるJEKIのメディアガイドから。

こうしたロケーションにおいて、週明けの月曜の朝に通勤しようとしたサラリーマン層に向けて、いきなり「今日の仕事は楽しみですか。」というメッセージが白地に黒明朝体で表示されると不快である、ということだ。情報はないが、帰宅時間帯にはひょっとすると「今日の仕事は楽しかったですか。」というメッセージだったのかもしれない。

さて、ここで重要な事実を明らかにしておく。前述のツイートの写真は、コピーだけが切り取られているが、実際にはこの広告素材は15秒の動画なのである。それは下の動画で確認することができる。

このコピーだけが表示されるのではなく、15秒の動画で、かつ他の複数ある広告素材の一つである。また15秒の中身も別のメッセージがあるのがわかる。別のメッセージと言うか文脈全体は時間も短く、文字も小さいので、歩きながらではメッセージの全体像は把握できない可能性があり、不快には感じない、気が付かない人もいたのではないかと思われる。

やはりこの会社の社長がのツイートが独り歩きして炎上した、と見ていいのだろう。このツイートが炎上狙いであったのかはなんとも判断できないが、その後の対応その他を見る感じでは、そうではないような印象を受ける。

デジタルサイネージは時間と場所を特定できるメディアなので、その時その場所にいない人にしか基本的には届かない。そこで最初からSNSでの拡散狙いで行うデジタルサイネージ広告も少なくない。そういう場合は効果の評価軸として「10万RT達成!」のようなことを関係者間で共有していることも多い。今回はそれが見事に逆効果となったわけだ。

炎上狙いではない、とした場合に、この広告のコミュニケーションのコンテキストを考えてみよう。

「今日の仕事は楽しみですか。」→「楽しみなんかじゃねーよ」→「ですよねー。そこで当社のサービスでビジネスに衝動を。ビジネスに感動を。いかがですか?」といったコミュニケーションを想定したのだろう。しかしながら前述の通り、尺と情報量とクリエイティブがきちんとマッチしていないので、通行人とサイネージメディアとの間のコミュニケーションのキャッチボールが成立していないように思う。そしてわずか1日で取り下げてしまい、そのプレスリリースも「取り下げました」と言ってるだけできちんとした趣旨説明はなく、余計にサラリーマン層に喧嘩を売っただけの印象になってしまったのではないだろうか。

この会社さんは2018年に「さよなら、おっさん」でも物議を醸したことは記憶に新しく、社風なのか社長さんのフィロソフィーなのかはわからないが、3年前と良くも悪くも1ミリもブレていないことが見て取れる。結局のところ、この会社のコミュニケーションが今回も「古い価値感(おっさん的価値観)を打破する」という立場なので、「古い価値観」というものの存在を認め、それを仮想敵として設定する必要があるわけだ。これだけでも大変なことであり、そもそもわざわざなぜ好き好んで仮想敵を作らなければいけないのかが不明だったりする。

確かにこのコンテキストに共感する人もたくさんいることは間違いない。しかし少なからざる数の敵をわざわざ可視化してしまう必要はないはずだ。これはデジタルサイネージだからとか、SNSだからという問題ではないこと。真面目に、決して楽しみなんかじゃないけど、普通に仕事そしている人をバカにしたような物言いではなく、いまはみんないっしょに、助け合うという流れだろう。そこを完璧に見誤っていると思うのだ。そもそも仕事が楽しいというのは極めてレアで、仕事よりもっと楽しいことを知らないだけかもしれないわけだ。朝の品川駅でこんなことでいきなり一方的に絡まれても、いい迷惑で大きなお世話ということになるのは致し方ない。

さて、デジタルサイネージの関わる者としては、「本件はデジタルサイネージの強烈な媒体力がこうした結果を招いたわけであり、むしろ好例である」なんてことを一瞬たりとも思ってはならない。ということはだけは間違いないと思うのである。

(デジタルサイネージ総研 江口 靖二)

DSEのEはExpoからExperienceに変わった

主催者の破産、Covid-19などの不運が続いたDSEが、2022年3月にラスベガスで復活する。開催期間は3月21日から24日(展示ホールは22日から24日)に開催される。

オフィシャルサイトはこちらから。

DSEはDigital Signage Expoの略だったのだが、今年からはDigital Signage Experienceにこっそりと変更になっている。言葉遊びっぽい部分もな無くはないが、デジタルサイネージの趣旨や昨今の社会状況を考えれば、モノやサービスを並べて展示しているイメージのExpoよりは、デジタルトランスフォーメーションを体験するExperienceと行ったほうが本来あるべき姿にずっと近づくではないか。

現在セミナーなどの登壇者の募集出展やスポンサーの募集を開始している。また現時点のスケジュールはラフであるがこちらで確認できる。

デジタルサイネージ総研ではアメリカ渡航が可能である限り、現地からのレポートをお届けする予定である。

(デジタルサイネージ総研 江口 靖二)

OAAA、OOHクリエイティブのベスト事例を発表

OAAA(Out of Home Advertising Association of America)は、広告主がOOH(デジタルだけに限らず)を効果的に活用するための「OOH Creative Best Practices」を発表した。このガイドには、OOHのデザインの基本、タイムラインの計画、キャンペーンの始め方と進め方などのヒントが掲載されている。

このガイドでは、広告主がOOHフォーマット用にクリエイティブを最適化するために、フォント、タイプファースト、画像、CTAなどのデザイン要素のヒントを紹介している。また、クリエイティブ・コンセプトを広告掲載前に設定することの重要性についても説明している。

また、全国規模のキャンペーンや、特定の市場、ニューヨークやロサンゼルスなどの大都市圏でのOOH販売者との連携方法も紹介している。そのほか、体験型やSEOなど、他のメディアタイプをOOHキャンペーンに組み込む方法なども含む。

OOH Creative Best Practicesはここからダウンロード可能である。

(デジタルサイネージ総研 江口 靖二)

読売テレビがYouTube✕テレビ番組✕屋外ビジョンで「越境放送」を開始

読売テレビは、株式会社東急エージェンシーと、ジャパンコンテンツエンターテインメント株式会社が進めるYouTube、テレビ番組、屋外ビジョンがそれぞれの垣根を越えて、3つのメディアが連携する超実験放送プロジェクト「越境放送」に参画。同プロジェクトの軸となる3つのYouTubeチャンネルと連動したドキュメントバラエティ番組『越境放送バリ』を10月1日(金)より放送する。

コンテンツも強力だ。宮川大輔さん、みちょぱさん&吉村さん、のんさんのYouTubeチャンネルの立ち上げを皮切りに、読売テレビでは新ドキュメントバラエティ番組『越境放送バリ』の放送を、渋谷ハチ公前の大型屋外ビジョンQ’S EYEや電車内のTOQビジョンではYouTubeチャンネルでは見る事ができない動画や、YouTubeチャンネルのニュースの告知などを行う。

「越境放送」というのはなかなか刺激的な言い方である。現在の地上波テレビ放送は、放送エリアが定められており、それを超えて放送を行うことは出来ない。山梨県のケーブルテレビ局が東京キー局のチャンネルを同時再送信したり、徳島県では多くの過程が生駒山にアンテナを向けて関西局を受信したりなど、いろいろな議論を起こしてきたことは周知のとおりだ。今回はチャンネルまるごと電波やケーブルテレビよる越境放送ではなく、特定のコンテンツではあるが、電波だけにとらわれることなく、YouTubeや大型ビジョンによるデジタルサイネージにまで越境するという挑戦的な企画なのだ。

同じタイミングで10月2日(土)から、日本テレビがTVerを通じてインターネットによる同時配信をスタートさせる。

同じ地上波放送であるラジオ局がradikoでネット配信(IPサイマルラジオサービス)を開始したのが2008年の3月5日。この徳は在阪ラジオ局6局がスタートさせた。徐々に視聴者数が増加し、参加局も全国に広がっていく。そしてそこから7年かけてついに2014年4月1日には放送エリアの垣根を超えた「越境放送」である「radiko.jpプレミアム」が開始され現在に至る。radikoで明らかだったように、送信所からの電波の直接受信というのは、電波伝搬特性上どうしても大きく制約を受ける。不感地帯も多い。ところがケータイ電話のネットワークを利用するとこの問題はほとんど解決をしてしまう。このことは視聴(聴取)エリアが拡大するという点によって、スマホでいつでもどこでもラジオが聴けるという圧倒的なユーザーベネフィットをもたらした。

さてテレビはどうか。2015年の10月26日にTV版のradikoとして「TVer」が開始される。といっても現在でもradikoのようなサイマル放送ではなく見逃し視聴に限定されてきた。日テレはここにまた一つ風穴を開けるのだろうか。

今回の取り組みはサイマル放送という視点とは異なり、いわゆるコンテンツの配信チャネルを複数化するということだ。そしてYouTubeに加えて、デジタルサイネージにも越境してくるというアグレッシブな取り組みである。ここはデジタルサイネージのメディア特性である、必ずしも個人の視聴意思が起点ではない、セレンディピティーなメディア接触という点がどこまで受け入れられ、活用されるのに注目が集まる。

【公開後2021年9月28日追記】

テレビ朝日も追従するようですね。これは全系列そうなりますね。

テレビ朝日 年明けからネット同時配信開始へ調整 プライム帯中心に一部番組の配信を検討

(デジタルサイネージ総研 江口 靖二)