日本初のデジタルサイネージ・コンサルタント、デジタルサイネージ総研(TM)が国内および海外の最新情報や市場の動向をお届けします
SaaS(Software as a Service)という言葉をご存知だと思います。パッケージソフトウェアを買って自社のコンピューターにインストールするのではなく、ベンダー側のサーバーにあるソフトウェアをネットワーク越しに利用するような形態のものを指します。
日本国内ではほとんどありませんが、欧米ではこの SaaS 型のデジタルサイネージ・ソフトウェアが徐々に増えているようです。日経マイクロデバイス誌の8月号(p.58)にも書きましたが、この方式にはサーバー設置費用やサーバー管理者を社内におかなくてよいなどのメリットがあります。またデジタルサイネージネットワークの拡大に伴い、運用や制作の一部を外部に委託するようなケースが増えれば、ウェブ上のどこからでもアクセスして管理できるというメリットがさらに大きくなる可能性もあります。
米国で SaaS 型のデジタルサイネージ・ソフトウェアを提供する BroadSign 社 によると、SaaS 型には以下のようなメリットがあるそうです。
Let’s see how a SaaS solution can resolve the typical challenges of digital signage networks:
- Networks don’t have to invest in additional IT infrastructure; the software company has already done that for them.
- Networks do not need to manage a server, content distribution, or a database, which incur high hardware, personnel and bandwidth costs.
- The Software as a Service approach significantly reduces deployment costs, maintenance overhead and time to market.
- Operators can focus on their core business and not worry about technical aspects of a network.
- Networks are always using the latest technology and business methods, as software upgrades are included in the contract at no extra charge.
- The SaaS model breaks up the upfront software licensing cost into low monthly fees.
(Technology News: SaaS: Riding the Digital Signage Wave the SaaS Way より、一部引用)
オーストラリアから、ついに無料のデジタルサイネージ・ソフトウェアがリリースされました。世界初だそうですが、石油メジャーのひとつである英 BP Oil p.l.c. も採用を決めたそうです。
そこで気になるのは、やはりビジネスモデルですね。
開発元の Digital Recall 社 では、広告制作も格安で請け負っているほか、様々な有料オプションを設けています。例えば、デフォルトでは Digital Recall 社 の広告が挿入されますが、これを消すには $30、ウェブページを読み込んで表示させる機能を追加するには $60、.mov, .swf, .avi に加えて .mpg, .wmv, .divx などのフォーマットの動画も再生させたい場合は $30 といった具合です。インターネット上のフリーウェアやシェアウェアなどによくあるやり方ですが、必要な機能にだけお金を払えばいいという点はユーザーにとっても嬉しいでしょう。
Digital Recall 社 のモットーは “We make it easy!(もっと簡単に!)” であり、デジタルサイネージは顧客にメッセージを伝えるのに効果的な手段なのだから、大企業のみならずあらゆる企業が使えるようにするべきだとの考えから、その障害となっているコストと複雑さ(Cost & Complexity)を取り除こうとしています。
ちょっとした発想の転換ですが、非常に面白いアプローチだと思います。日本のソフトウェア開発会社にとっても参考になるのではないでしょうか。
In addition to their many users around the world, BP Oil Plc is now a user of Digital Recalls Free Digital Signage Software.
Digital Recall is a world-first provider of free digital signage software for the centralised online control (over LAN or Internet) of a network of one or more monitors at one or more locations.
Simply download the software from their website www.digitalrecall.com.au. Complete User manuals are provided, and users can use their own equipment and their existing internet service.
(BP Oil Plc Uses Digital Recall - Worlds First Free Digital Signage Software より、一部引用)
リテール系のデジタルサイネージでは最も有名な事例のひとつであるウォルマートのインストアTVですが、近く「ウォルマート・スマートネットワーク」と呼ばれる新システムを導入するそうです。
詳細は未発表ですが、関係者の話として、これまでよりもアイレベル(目線の高さ)に近い位置にモニターを移動すること、インタラクティブな「バーチャルアシスタント」による商品情報の検索やお薦め商品の紹介機能の追加などが明らかにされています。
こうした動きの背景にあるリテール系デジタルサイネージの現在のトレンドを挙げてみましょう。
最後に、第1世代のウォルマートTVに関する金銭面の情報をまとめておきます。
ウォルマートのインストアTVは2005年に仏トムソンに買収された PRN(Premier Retail Networks)社が提供していますが、2003年のウォルマートTVからの収入は 6,100万ドルであり、ウォルマート側から運用費として支払われた3,900万ドルを合わせると PRN のビジネスの 89%をウォルマート関連が占めていました。現在の PRN の収入は BestBuy や Costco などに提供しているネットワークを合わせて 2億5,000万ドル程度と見られ、そのうち 1億〜1.5億ドルがウォルマートTVからの広告収入であると推定されています。
一方、昨年の米国のTV広告費は640億ドルに上っており、1億3,000万人/週というウォルマート店舗の来客数を考えれば、未だそのポテンシャルのごく一部しか活用できていない状況だと言えます。最大の課題は広告効果の証明であり、Nielsen 社が6月に開始したインストアメディアの効果測定サービス PRISM をウォルマート社も採用します。
とはいえ、インストアメディアによる広告収入の伸びが期待したほどではなかったとしても、ウォルマート社にとっては大きなメリットがあります。ウォルマート社は広告収入の8%を PRN 社にマージンとして支払う一方で、100万人を超える同社の従業員とウォルマートTVを使ったバーチャル会議を行うことができます。こうした企業内ネットワークをタダで手に入れた上、広告収入も得られるというわけです。もちろん、こうしたサプライヤー側にだけ費用負担を押し付けるような形での事業展開はデジタルサイネージの発展にとって望ましくないという意見もあります。
Despite growing talk about and investment in shopper marketing in recent years, relatively little money has flowed into in-store media. Now, Wal-Mart Stores is looking to change that as it readies a second-generation in-store digital TV and signage network.
(Wal-Mart Preps Next Phase of In-Store TV - Advertising Age - News より一部引用)
中国のデジタルサイネージ企業と言えば、2005年に IPO を果たした FocusMedia 社 が有名ですが、それ以外にも NASDAQ 上場を果たした中国企業が2社あるのをご存知でしょうか?
そのうちの1社、AirMedia 社 については以前にもこのブログで取り上げたことがありましたが、空港や航空機内に特化したメディア展開で既に 18,000 台以上のディスプレイを持っています。2007年当時、すでに中国の15巨大空港のデジタルディスプレイのうち 95%を AirMedia Group が独占しており、高級品のプロモーションに適したメディアとして世界中の大企業から広告を取っています。
また、バスに特化して 33,000 台以上のデジタルサイネージネットワークを展開する VisionChina 社も AirMedia 社と同じく 2007年に NASDAQ 上場を果たしました。中国の主要14都市のバスに対して携帯電話回線でテレビニュース、株価、天気予報、スポーツの結果を広告と一緒に流しており、2007年の時点で1日当りの視聴者数が2,600万人です。
文字通り、世界のデジタルサイネージを中国がリードしているという状況ですね。
Two more IPOs in 2007 gave China a clear lead in the race. AirMedia (NASDAQ:AMCN) specializes in grabbing the attention of China’s wealthiest: the air travelers. With over 16,000 displays in China’s top airports, AirMedia is a great media for promoting China’s luxury products. Another digital signage visionary player VisionChina (NASDAQ:VISN) follows with its IPO in December. Boasting a network of over 26,000 displays in buses, VisionChina builds a network where viewers spend longer time than the other two digital signage platforms.
(China Leads the Digital Signage Race - Seeking alpha より一部引用)
日本ではまだ見られないデジタルサイネージのジャンルにモバイル連携型(mobile-driven digital signage)というものがあります。
携帯電話の「万能リモコン化」が進行する中、デジタルサイネージすら携帯からコントロール可能になりつつあり、これまではタッチスクリーン技術などを使って行っていた操作が、もっと離れた場所から携帯でできるようになります。
例えばカフェに居合わせた複数の人が携帯を使ってデジタルサイネージのモニター上でチャットをしたり、スクラブルのようなゲームを競い合ったり、という具合です。これによって画面へのアテンションが上がり、引いては広告を見る時間も長くなるのだそう。
[youtube:http://www.youtube.com/watch?v=sK9c5npH2oA]
さて、ここまでなら以前にご紹介した MegaPhone とも似ていますが、この LocaModa の場合はこれをさらにソーシャルネットワークと結びつけ、モバイル、インターネット、デジタルサイネージの3つの媒体を一体化することで、インタラクティブなマーケティングキャンペーンが実施可能なプラットフォームを提供しています。
例えば、全米のバー3万店にデジタルジュークボックスのネットワークを持つ TouchTunes 社と共同で、Beck のニューアルバム “Modern Guilt” のプレリリースキャンペーンを行った際には、携帯から SMS でテキストメッセージを送ると発売前の新曲が聴ける最寄りの TouchTunes のロケーションを知らせるというサービスを実現しました。キャンペーンの情報は Facebook、iLike、MySpace などの SNS で告知され、オンラインとリアルワールドの両方でコアなファン層にリーチすることができたそうです。(原文:Beck Pre-Releases New Album “Modern Guilt” to TouchTunes Network より一部を要約して引用)
モバイルと SNS を取り込むことで、デジタルサイネージに口コミのパワーを付け加えることができます。確かにこういう使い方であれば大きな効果が見込めそうですね。実際の調査でもよい結果が出ているそうです。
ほかにも、ユーザーが携帯から送ったテキストや写真をデジタルサイネージの画面上に表示する技術としてこんなものがあります。
JR東日本が7月14日から行っている東京駅八重洲南口コンコースでの実証実験が海外メディアにも取り上げられています。
この実験では動画は用いず、静止画のみを1分間ごとに切り替えて表示しています。また、配信ネットワークにはイー・モバイルの HSDPA 携帯電話網と無線LANを組み合わせています。
表示する広告の意匠や配信スケジュール、動作監視などの情報を、携帯電話網を通じて配信している点だ。これまでのデジタルポスターは有線ネットワークを通 じて情報を配信しており、設置にあたっては「工事を含めて約2000万円のコストがかかった」とJR東日本旅客鉄道 事業創造本部の原口壮裕氏。携帯電話網を利用することで、このコストが不要になるとともに、設置場所の自由度が増すという。また、携帯電話網を通じて情報 を配信するのを1本の柱のみとし、残りの4本の柱向けには無線LANを通じて配信することで通信コストの削減を図っている。
駅(地下鉄)でのデジタルサイネージは世界各地で導入が始まっており、広告主からの評価も非常に高いそうです。駅のポスターのようにすでにビジネスモデルが確立している広告媒体については、デジタル化もスムーズに進むと言えそうです。
また駅の通路などでは人が立ち止まってしまうと困る場合が多いため、はじめは静止画のみを流すのですが、その後次第にアニメーションが増えて行って最終的には動画になる傾向があるそうです。
Metro digital signage applications are popping up all over the world - and in each case they are proving to be extremely popular with advertisers. It is interesting that many start with ’stills’ only - usually on the basis that they do not want people stopping or getting distracted by the video images. Over time however most applications slowly allow more and more animation, until ulitmately they become completely animated.
(aka.tv - East Japan Railway Tests 65″ Digital Signage In Concourses より、一部引用)
JR東日本のこれまでの実証実験では実験終了後も引き続き運用が行われているケースが多いため、今回もそのまま定着するのではないか、とコメントされていますね。私もそう思います。今後はJRだけでなく、地下鉄にももっと導入されていくでしょう。ロンドンの地下鉄みたいになったら単純にかっこいいですよね。
デジタルサイネージの事業展開を考えるとき、ほかの情報媒体との差別化という視点は欠かせないでしょう。デジタルサイネージのもたらす便益と同等のものがほかの媒体からでも入手できるとしたら、その価値は大きく減じられてしまいます。
そのような視点から、今回は携帯端末向けのマルチメディア放送サービスを取り上げてみたいと思います。
この分野の動向としては、まず 2006年4月1日にサービスを開始したワンセグの次世代型として、1チャンネルで複数の番組を放送できるマルチワンセグメントサービスや、小出力でエリアを限定して放送するエリア・ワンセグサービスの実験が総務省指定の「ユビキタス特区」などで始まっています。
マルチワンセグメントサービスで考えられるコンテンツを大別すると,「地域情報系コンテンツ」「専門チャンネル系コンテンツ」「ビジネス系コンテンツ」の3つがある。さらにそれらと連携する形で「視聴者参加型コンテンツ」があるという(図1)。
図1●マルチワンセグメント放送で考えられるコンテンツ案
コンテンツは,市街地エリアでのリアルタイム視聴を想定した地域情報やエンタテインメント番組,外国人向け番組などが考えられている。またビジネ ス系では,複数番組を同時に放送できるマルチワンセグサービスの特性を生かして,ニュースや天気予報,株価情報など今まで通信を使って提供することが多 かったコンテンツを放送で提供する。これらに加えて,ダウンロード型の配信,さらにEコマースなどによる課金も想定している。
また、具体的なビジネスモデルの例として、デジタルメディア協会(AMD)の役員企業であるインデックスでプリンシパルを務める寺田眞治氏によれば、
例えば,音楽番組を想定すると,「携帯電話とコンテンツとしての音楽は相性が良いため,音楽専門チャンネルをCDやDVD,コンサート・チケット販 売のポータルとして考えられる」と寺田氏は説明する。具体的には,例えばコンサートのライブ番組のデータ放送部分がポータル・サイトになっていて,番組情 報やそのチャンネルのサイト,ECサイトなどの情報が掲載されているイメージだという。
そうした仕組みを作った上で,「各地域にあるCD/DVDの販売店やレンタル店が放送を使って,自らのビジネスを広げていくビジネス・スキームを 展開してもらいたい。一方,レコード会社や音楽系CS放送事業者などのコンテンツ・ホルダーは,放送料を支払ってチャンネルにコンテンツを提供することが可能になる。つまり,地上波放送に参入できる」(寺田氏)とビジネスの展開を説明した(写真2)。
さらに,地域情報系コンテンツの場合,その地域に特化したイベント情報や映画館情報などの提供が考えられる。例えば,映画会社による地域に密着したシネコンと連携した映画情報番組では,映画情報の提供によるシネコンへの誘導,シネコン入場料のFeliCa決済とクーポン配布による地域店舗への誘導など, シネコンと地域店舗利用の相乗効果に期待が持てる。
などが紹介されています。デジタルサイネージと比較すると、プッシュ型かプル型かという大きな違いはあるものの、提供できるサービスとしては重なる部分もありそうです。
このほか、地上アナログテレビ放送の停波により2011年8月以降「跡地」となる見込みのVHF帯の周波数を活用するタイプのモバイル・マルチメディア放送を巡っても動きが活発化している模様です。現在は日本発の技術と米国発の技術がしのぎを削る状況のようです。
日本の地上デジタル放送方式であるISDB-T(Integrated Services Digital Broadcasting-Terrestrial)をベースに拡張した「ISDB-Tmm(ISDB-T Mobile Multimedia)」方式と,米クアルコムが開発した「MediaFLO」方式の2つの提案があり,両陣営がしのぎを削る状況
その一方で、早くも携帯端末用の放送サービス向けソフトの発売を開始する事業者も出てきています。
伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は携帯端末用の放送サービス向けソフト開発を手がける米ラウンドボックス(ニュージャージー州)と販売代理店契約 を結んだ。この提携により、CTCはニュースや天気などの静止画や動画をリアルタイムで配信するソフト群を22日に発売する。
(伊藤忠テクノ、放送サービスソフトで米社と提携:日刊工業新聞 より一部引用)
ニュースや天気などのリアルタイム配信はデジタルサイネージのコンテンツとしてもよくありますよね。数年後には、24時間ニュースだけを放送するニュース専用チャンネルや、天気予報専用チャンネルなどが携帯でも無料で見られるようになるのかも知れません。
デジタルサイネージにしか提供できない便益はいろいろとあるはずなので、そういった部分に的を絞って行くことも必要かも知れません。